きゅーちゃんの話
2016年、初夏。
「東京でライブするから見にけーへん?」
高校の時の友達にそう誘われ、足を運んだ渋谷CYCLONEに"きゅーちゃん"はいた。
全然話さないし、目も合わないし、金髪だし、なんか怖いし、初めの印象はあんまりよくなかったけど、Twitterで絡むうちにいい子だと気づいた。
きゅーちゃんはギターが上手い。無駄が一切ない本当に綺麗な演奏をする、かなりイケてるギタリストだ。
そんなきゅーちゃんと会うことになった。こないだの5月。
たぶん、5年か6年かぶりかな。
新御茶ノ水で待ち合わせた。急に雨が降ってコンビニで傘を買っていたとほんの少しだけ遅れてきたきゅーちゃんは、ものすごくきゅーちゃんのままだった。
が、あの時はなかった左腕のタトゥーが時間の流れを物語っているみたいだった。
相変わらずあんまり目は合わないけど、きゅーちゃんはありえないくらいのスピードでずっと喋りまくっていた。すごい話すなあ、と思ったけど久々だしきゅーちゃんの話を聞くのは楽しかった。
新しく組んだバンドのこと、仕事のこと、掛け持ちでバイトをしていること。昔の友達のこと。
そして、きゅーちゃんは言った。
「楽しいのなんてギター弾いてる時だけだよ。それ以外は苦しいしほんと大変。でも、俺はもう出会っちゃったからさ、音楽に。だから、売れるしかない」
ああ、そうか。
好きなことするのって、楽しそうに見えて、実際楽しいかもしれないけど、めちゃくちゃ大変だよな、そうだよな。
厳しさ、苦しさ、そういうの全部ひっくるめてきゅーちゃんは音楽と向き合ってた。音楽を愛してる自分と向き合ってた。
美しい、そう思った。
きゅーちゃんとは7月末にも会った。
東京に行く前日の夜に「明日、昼は何してんの」と連絡が来た。昼過ぎからバイトの友達と会うまでは特になんもしてないよと言えば、じゃあそれまで会おうと言われた。また急だな……Qだけに……などとしょうもないことを思いながらも、本当に昼過ぎまで何もしてないので、むしろちょうどいいなと会った。
また、音楽の話をした。
まあ、私たちの共通言語は音楽しかないので、当たり前だな。
その日の晩にきゅーちゃんとの出会いの地、渋谷CYCLONEできゅーちゃんのライブを見た。
正直、身長の兼ね合いできゅーちゃんはあんまり見えず、ボーカルの子をずっと見てた。ごめんな、きゅーちゃん。
ライブを見て思ったのは、本当に心が揺れ動いた時、言葉は全く役に立たないこと。
改めて、実感した。
きゅーちゃんと再会してから、また音楽をやってみてもいいと思った。
時間がかかるし、何も弾けなくなってる自分が嫌になると思うけど。
すぐベースを修理に出した。お金が貯まれば、1年くらいヤマハに通って、先生に習ってみたいと思ってる。
ありがとう、きゅーちゃん。もう一度音楽をやろうと思わせてくれてありがとう。
私はきゅーちゃんみたいに音楽が好きな人間ではないけど、細々と音楽をしながら、何か見つけられたらいいなと、思ったよ。
いま、私ときゅーちゃんはよくわからんまま友達ではなくなってしまった(?)
なに?wwwどういうこと?wwスピード感すごいなwwと思ったけど、縁が切れる時は切れる。切れない時は切れない。また繋がる時は、また繋がる。
そんなもんだから。
どこかできゅーちゃんが元気にギターを弾いていて、きゅーちゃんのギターで誰かが絶句していれば、それでいいよ。
輝け、きゅーちゃん。
ずっとずっと、きゅーちゃんのままで。